渋柿のSS講座(第14回)「脇役の使い方@」
年間のアメリカ映画の最優秀を決めるアカデミー賞に、もっとも栄えある脇役を表彰する、「助演男優―あるいは女優賞」という賞があります。くだけた言い方をすると「引き立て役」に与えられる賞です。この賞の名が示す通り、主役を引き立て、助けるために存在しているのが、脇役と申せましょう。
ただし、ここで言う「助ける」とは、あくまで物語を進める上で、の話です。キャラクターは物語の都合によって、配置されます。物語の上で、常に何らかの役目を負わされて、その場面に存在しているのです。
あなたは、脇役にどのような役目を負わせておくべきでしょうか。しばらくは、「脇役の使い方」、より細かく言えば、「脇役の役割」のいくつかを、追いかけて行きたいと思います。
さて、物語に主題―テーマを付けよ、と以前にお話しましたが、これに基づくと、主人公は物語に科せられたテーマを背負って、行動することになります。
物語の中にテーマを持ちこむべき理由は、主人公がどのような考え方と向きあって、物語を作っていくのか、ということなのですが、物語の冒頭で方向性をハッキリとさせておかないと、読者をひきつける事がなかなかできません。
出だしで、読者への掴み―アプローチ―が作れないと、後は文章がだらけて行くだけなので、読者は読みつづけることが苦痛になってしまうのです。キャッチコピーを作る人は、掴みを書いて、消費者を商品にひきつけますが、小説も同じです。出だしを上手く書くことで、作品に読み手の興味をひきつけなければならないのです。
ドラマは、人と人との関わり合いの中で作り上げられるものです。主人公の日常を変えてしまう、より大袈裟に言うと、人生が変わってしまうほどのきっかけは、物語の中にきちんと描かれねばなりません。
では、主人公が、テーマを背負うきっかけは、どこで描かれるべきでしょうか。
主人公と脇役の関わり合いの中で、物語が進行していくとするなら、きっかけをもたらすのは相方―脇役の役目とすることが出来ます。作品の掴みを作るために、この関わり合いを入れたのなら、テーマを背負うきっかけはその場所で行われているのです。
もう、おわかりかと思いますが、脇役の役目は登場する事で主人公に、あるいは物語に変化をもたらすきっかけを作る事です。とくに、物語の冒頭の主人公と脇役の関わり合いは、作品の方向性を決定するくらいの力を持ちます。
掴みの部分が大事なのは、読者をひきつける目的のほかに、作品の方向性を決定する、という事が入っています。掴みが上手く作れないのは、その作品のテーマを述べる事ができていない、ということでもあります。
その作品で、脇役が持ってきた問いかけに、主人公がイエスと応えるか、ノーと応えるか、それは書き手さんの立場にならないとわからないですが、その受け答え、描写の一つ々々には、その作品の完成度を左右するくらいの力がある、ということだけは忘れないでください。
以上、渋井 柿乃介でした。