渋柿のSS講座(第16回)「脇役の使い方B」


 「二枚目」「三枚目」という言葉があります。歌舞伎の番付から来た、という事はあまりにも有名ですが、演劇に限らずとも物語においては、「二枚目」だけではなく、「三枚目」の役回りを始めとするさまざまなキャラクターを、一体どのように演出していくか、が鍵を握っていると思います。
 助演男優―あるいは、女優―が、なぜ評価されるのか、を考えてみると、主人公と対比できるだけの個性を、きちんと表現しきっている点を取り上げた、ということなのです。

 何度でも言いますが、ドラマは人間同士のぶつかり―関わり合いです。「銀河英雄伝説」をお書きになった田中 芳樹さんの表現を借りれば、主人公に都合の良いヒロイン、というものはありえないのです。
 言い換えると脇役もまた、主人公の意思や都合とは別に行動しています。物語は、波瀾があるからこそ成立します。ある意味では、「予定外の出来事の積み重ね」とも言えます。作品には「フルメタル・パニック―揺れるイントゥ・ザ・ブルー」で、マデューカス中佐がテッサに対して言っていたような、「あなたには、いつも驚かされる」ような存在が要るのです。
 驚きがもたらす好奇心と、脅えがもたらす恐怖心は、人間の知恵を弾き出すトリガーの役割を果たします。導き出された知恵は、物語のすう勢を決しますが、その知恵をもたらすための悩み、葛藤の大きさが、そのままキャラクター達の大きさ(存在感)を作っていきます。
 たとえばヒロインのような、主人公に良い影響を与える存在は、主人公を驚かす事で、「あなたはそれで良いのか」ということを間接的に言うのです。だから主人公は、「その人のために」ということを考え出します。
 これと少し違うのが、敵役です。敵役も主人公に対峙することで、「お前はそれでいいのか」と言うわけです。この場合、主人公は敵役のやっている―あるいは、言っている―ことを否定するために、葛藤する事になります。
 はっきりと言えば、ヒロインも敵役も、主人公に強い影響を与えるほどの個性を持っている、ということです。それによって、物語の存在感―現実感とも言えるでしょうか―が高まって行くのです。

 オラクルの駄作小説企画ものとして作られた「クラウド・アイアンハート」を取り上げてみましょう。この小説のダメさ加減は、色々な方向から述べる事が出来るのですが、こと脇役という観点から切った場合には、一つ々々のキャラクターの個性が、まったく現われてこないところに問題があるのです。
 個性の貧しさ・弱さを問題にしているのは、登場人物の克己・葛藤の機会がそれだけ乏しいということを示している故にです。ドラマには、当然、人間の悩みが入ってきます。ドラマを成立させるためには、そのための個性が必要になります。
 別の場所で言いましたが、「作者がのめり込むほどのキャラクターは、敵役に持っていくべきだ」としたのは、それだけ主人公に対して強い影響を与える事が出来るからなのです。
 お互いに影響し合う、関わり合うことがドラマであるとするならば、脇役の個性をいかに高めていくかが、お話の面白さを決める事になるか、とも思われます。

 以上です。渋井 柿乃介でした。


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