渋柿のSS講座(第20回)「閑話休題」
こちらの事情から、しばらく講座を中断いたしますが、その前にこれまで綴ってきた事を振り返ってみたい、と思います。
以前に、「キャラクターにはそれぞれの立場があり、考え方があり、けしてお話の都合通りに行動するわけではない」という意味合いのことを言いました。当たり前の事ですが、人間は個々の価値観から、自分が何をするかを決めます。ここで述べてきた事は、しょせん「渋井 柿乃介の価値観」であるに過ぎません。
講座をはじめたとき、お題を募集したのは、読んだ人が「考える」ようにしなければダメだ、と思ったからです。私がお題まで決めてしまうと、完全に私の価値観を語ることになってしまうのです。それでは、私の価値観を語っているだけで、読んで下さった方が、自分の価値観を意識するまでには至りません。
お題に対する私の価値観をダシにして、「自分の価値観―講座を読んで下さった人の―」を確認してもらえればそれでいい、と思っていました。だから、講座を読んで、私と違う考え方を意識したのなら、それはそれで構わなかったのです。
なぜならば、知識を鵜呑みにするよりも、「考えること―知恵―」を大事にして欲しかったからです。
文章技術(修辞)は「相手にアプローチする方法」ということですから、どう考えても「文章に関する知識」です。上手い構成を作る方法、文章連結をしっかり作る方法など、みんな知識や経験です。
「知恵」というのは、知識や経験が土台になります。どんな人も、今まで得た知識や経験を元にして、工夫しているのです。知識や経験が豊富だと、そこから導き出される「知恵」はさまざまなものになります。
お話を作るための選択肢が、その分だけ増えていくわけです。そこでどのような選択をするか、どのようなアプローチを盛りこむかは、その人の「感性」と「知恵」によって決まります。
経験や知識は数をこなさなければ、どうにもなりません。ジャンルを問わず、たくさんの本や雑誌を読み、何度も作品を創ってみる、のがよろしいでしょう。
もっと手っ取り早く、文章技術をつけたいのであれば、よく売れている週刊誌や新聞の記事を真似る事です。週刊誌や新聞は、面白い記事を売り物にしています。下手な文章を書けば売上に響きますから、文章技術を磨かないと、どうにもならないんです。
だから、参考にしたり、真似たりするには一番だと思います。
念のために、知識や経験は大事ですが、それは「知恵」ではありません。持っている知識や経験をどう使うか、が「知恵」です。知識よりも「知恵」の方が、はるかに大事です。乏しい知識でも、確かにそれなりのものは書けます。
ここで問題にすべきは、それを意識して、「知恵」を絞って作り上げたか、あるいはそうではないか、です。知識や経験は、そのひと次第で埋める事が出来ます。そこから先のもの、「知恵」「感性」の分野は、知識や経験を土台にするものです。知識や経験は大事なのは、その意味において、です。
ですので、皆さんには、「好奇心」を無くさないように、と願っています。
それでは、しばらくお休みです。渋井 柿乃介でした。