ORACULAR‐WINGS■
 ■光と闇のショウダウン■


8月26日 1020時(日本標準時間)
東京都立陣代高校



 ミーン、ミンミンミン……
 夏の余韻を懐かしむかのように、蝉は狂ったように鳴きつづける。入道雲と、灼熱の太陽。そして、わずかな涼しさを運ぶ風。
「ふぅ……」
 炎天下の下、体操服で作業をしていた梢は額の汗を拭いて一息ついた。長く伸ばした茶色っぽい髪が、動きに合わせてふわりと揺れる。多少砂埃で汚れている彼女だったが、汗をかいたその姿は若々しくてとても美しかった。
「どうした? 疲れたのか?」
 彼女にかけられる声が一つ。振りかえった彼女の先には、やたらと殺気を纏った青年……御崎瞬の姿があった。彼も汗をかいてはいるが、彼女ほどではない。もともと暑さに強いのだろう。
 彼はよく冷えたジュースを梢に投げ渡してから、わずかに額へ滲んだ汗をタオルで拭った。そして周囲を睥睨する。
 陣代高校文化祭の名物、入場ゲート。
 現在瞬たちは、それを作成していた。まだ夏休みで文化祭まで一ヶ月ほどあるのだが、作成には時間がかかるため夏休みを返上して作っているのだ。
 作業現場である格技場裏へ、ガスバーナーや電動ドリルのたてる騒音が響く。
「ねぇ、瞬……」
 騒がしい周囲の音にかき消されないように結構大きな声で、梢は辺りを見まわしている彼に尋ねた。
「なんで、こんな物騒なゲートに決まったの?」
 もっともな疑問である。それはゲートと言うよりも、要塞と言った方がしっくり来るような代物だったのだから。
 銃座やスリット、数々の防犯装置。作りは頑丈で、材質も丈夫。テロがよく起こるような国にあるなら違和感が無いかもしれないが、ここは平和ボケの国……日本である。しかもあろうことか、この無骨な要塞は文化祭の入場ゲートなのだ。
 違和感を体現したかのようなこのゲートを見つつ、梢はついそう尋ねていた。
「戦争ボケに設計を依頼したのが、そもそもの間違いだ」
 ジュースのリングプルを開けながら、瞬は短くコメントする。中身を3分の1ほど飲んでから、彼は言葉を続けた。
「あいつに設計させれば、どのようなものでも兵器・要塞に早変りだ。防犯器具もどこからか仕入れて来るしな」
 ちなみに戦争ボケこと相良宗介に「ゲートのデザインはこれでいいだろうか」と尋ねられ、「まあ、好きにやってくれ」と言ったのは瞬なのだが……。
 ともかく彼は積まれたベニヤの上へ座ると、ジュースをもう一口飲んだ。よく冷やしていたと言うのに、夏の暑さでもう冷たくなくなってきている。ぬるくなったジュースを飲むのは嫌なので、瞬は残りを一気に飲み干した。そしてスチール製の空き缶を握り潰してから、汗をふいている梢に声をかける。
「帽子をかぶらなくて、大丈夫か?」
 夏に恐いのは日射病と熱射病だ。特に体の弱い人はかかりやすいので、注意が必要である。そして梢は、体が弱い。瞬の心配は、もっともなものだった。
 梢はにこりと笑うと、彼に答える。
「大丈夫ですよ」
「それだけ汗かいて『大丈夫』と言われても、信じるのは難しいな。……ほら」
 彼は苦笑しつつ、後ろ手に隠しておいた帽子を彼女に手渡した。麦藁帽子だ。
 梢はそれを受け取り、照れたように微笑む。そして瞬に礼を言った。
「ありがとう、瞬」
「気にするな。では、私は作業にとりかかるからな」
 照れた様子を見せず、彼は入場ゲートの向こうへ姿を消す。その後姿を見送ってから、梢は小さく笑った。一見ぶっきらぼうにも見える彼だが、よく観察すると左頬にある傷痕を指でさかんになぞっていたのだ。あれは梢の経験では、照れている時にする瞬の癖である。
 相変わらずだな、と梢は思う。瞬は初めて出会った時からぶっきらぼうで、口数が少なくて……でも、とても優しかった。ただ、その優しさを表現できないのは問題だが。
 と。
「梢ちゃん、どうしたの?」
 突然彼女の後ろから、声がかけられた。慌てて振り向くと、金髪に褐色の肌という国際色豊かな少女が梢を見ている。彼女の名前は御崎=F=メリル。夏休みに陣代高校へ転校して来た帰国子女だ。まだ夏休みなので転入したクラス……1年3組の面々に教師から紹介はされていないのだが、すでに知り合った人々と打ち解けている様子。明るい性格の彼女だからできることだろう。
 そのある種特殊能力を、梢はうらやましいと思った。
「ビックリした……。……どうしたの、メリルちゃん?」
「んん、別にぃ。ただ、梢ちゃん嬉しそうだったからどうしたのかなーって」
 彼女はそう言って、太陽のように笑う。梢は笑い返すと、
「いいことがあったからね。でも、どんなことがあったのかは秘密」
「あ、ズルイ!」
 梢に抱き付いて、チョークスリーパーをかけるメリル。間延びした喋り方と違い、動きは機敏である。そして力は、驚くほど強い。
「ちょっと、メリルちゃん!」
 首をギリギリと締め付けられて、梢はたまらず悲鳴をあげる。
「どうした!?」
 それを聞いて、突風もかくやというスピードで瞬が戻って来た。左手にはスパナを持っている。おそらくリベットを締めていたのだろう。だがしかしその勢いも、メリルが梢を絞めている光景を見た瞬間消えてしまった。
「……何をしている?」
 結構冷めた口調で尋ねる瞬。メリルは笑顔で、
「梢ちゃんが隠し事してるから、とっちめているの」
「分ったから、とりあえず絞めるのを止めろ。梢の顔色が青くなってきている」
「……あ」
 慌てて手を離すメリル。梢は咳き込み、新鮮な空気を胸いっぱい吸い込んだ。すこしの間深呼吸して息を整えると、
「メリルちゃん……殺す気?」
 涙目でメリルを睨んだ。
「あ……あはは……」
 笑って誤魔化そうとするメリルだが、梢の威圧感に圧されて一歩二歩と下がる。そして……脱兎の如く逃げ出した。
「こら、待ちなさい! 逃げるなら、謝ってからというのが礼儀よ!」
 メリルを追って走り出す梢。身のこなしの素早いメリルに梢が追いつけるとは思わないのだが、とりあえず瞬は彼女の好きなようにさせておいた。
 2人の声が遠ざかる中、瞬は空を見上げる。
 午後も暑くなりそうな……そんな天気だった。





8月26日 1700時(日本標準時間)
東京都 泉川 御崎家





 猛威をふるった真夏の太陽も時の流れには勝てず、ビルの谷間に沈もうとしている。止まっていた風が吹きはじめ、木々がざわざわと小さく囁いていた。
 晩夏の息吹を感じる。
 瞬はそうぼんやりと思いつつ、台所で食事の仕度をしていた。以前は2人分でよかったのだが、メリルが来てから3人分になったので少し大変である。だがもとより料理を作るのは得意なので、さしたる苦にはなっていない。
 包丁が、まな板の上を乱舞する。幾重にも連なる白刃の残像が、整然と食材を切り分けていった。
 まさに神業である。……ただ、剣士がこういうもので自らの技を発揮するのもどうかと思うが。横で瞬の手伝いをしていた梢は、彼は剣士より料理の鉄人を志した方がいいのではないのか、と考えてしまった。
 似合うかもしれない。瞬にコック帽、エプロンを装着するのって。
「……どうした?」
 微笑する梢に気付いて、瞬は彼女に声をかけた。「ん、なんでもないわ」「そうか」 梢の笑顔に多少の疑問を感じつつ、鮮やかに切り揃えられた食材を瞬は鍋に放り込む。レムール貝、ホタテ、エビ、うずら卵、イカの輪切り。海鮮料理を作ろうとしているらしいのだが、まだ何を作ろうとしているのかは分らない。
「ねぇ、瞬……。何を作るの?」
 今度はご飯に黄色っぽい何かを浸す瞬に、梢は不思議そうな声をかけた。彼は小さく笑うと、こう答える。
「別に……。ただのカレーだ」
「カレー? 海鮮風カレーなの?」
 では……瞬が仕度しているのは何なのか? そう思っていると、
「これはサフランライスだ。普通に白米を使うのも面白くないと思ってな」
 苦笑しつつ彼は説明した。サフランライスという名前は聞いたことがあるのだが、どのような物だか食べたことが無い梢は今夜の夕食に俄然期待しだしてしまう。
 と、電話が鳴り出した。ジリリン、ジリリンと昔を懐かしむようなベルの音色だ。走って行こうとする梢だが、瞬はそれを制した。
「私が出よう。火の番を頼む」
「うん。分った」
 火にかけた鍋を梢に任せ、瞬は玄関へと走って行く。そこには、今時珍しい黒いダイヤル式の電話があるからだ。彼は受話器を取り、口を開いた。
「はい、御崎です」
『シュンか?』
 聞こえて来た低く落ちついた声は、瞬を絶句させるのに十分なものであった。怜悧な彼の顔に、驚愕が浮かぶ。
「この声……カリーニン殿ですか!?」
 アンドレイ=セルゲイビッチ=カリーニン。瞬が昔世話になったロシア人だ。命を助けられたことも、一度や二度ではない。懐かしさと過去の記憶が噴水のように込み上げてきて、彼はしばらく言葉を詰まらせた。カリーニンは、そんな瞬の様子など意にも介さないかのように言葉を綴る。
『昔を懐かしんでいるところ悪いが、君に依頼をしたい』
「……依頼……ですか?」
 怪訝そうに問い返す瞬。
『ああ。君は以前ミスリルに協力したことがあったはずだ』
 ミスリルに協力。瞬はつい20日ほど前に、大規模なテロを止めるためミスリルから借りたASで戦ったことがある。
「ありますが……何故あなたがそのことを?」
『私もミスリルに所属しているのだよ。つまりこれは、ミスリルからの依頼なわけだ』
 嫌な予感がフツフツとこみ上げてくるのを感じる瞬。それでも気を取りなおし、依頼の内容を尋ねた。
「それで私は、どのようなことをすればよろしいのですか?」
『……少し待て。上司に代わる』
 彼は一方的に告げると、言葉を切った。 ……上司? カリーニン殿がトップではないのか……。
 ある意味カリーニンに心酔している瞬は、彼に上司がいることに驚きを感じていた。自分が知る限り、彼より優れた戦士はいない。そのカリーニンに命令を下せるような人物なのだから――
『……はじめまして、ミサキさん』
 だが、しかし。電話の向こうから聞こえて来たのは、かわいい少女の声だった。
「…………あなたが、カリーニン殿の上司ですか? 失礼ですが……階級と年齢は?」
『……階級ですか? 大佐ですけど。歳は16歳です』
 ……16歳で、カリーニン殿の上官か……。何者だ?
 いぶかしむ瞬だがふと、過去のセリフがフラッシュバックした。忘れもしない、6月26日の『大佐殿のご厚意に感謝するのだな』という宗介のセリフ。
「もしかして……相良宗介の上官はあなたですか?」
 瞬の問い。電話の向こうで、動揺する気配があった。
『そ……そうですけど……』
「では、礼を言わせてもらいます。梢の件で世話になりました」
 世話になったとは、一度は消されていた彼女の戸籍を偽造し、日本で普通に生活ができるようにしてくれたことだ。
「恩は、返さねばなりません。ご命令を」
『あ……はぁ……』
 瞬に自分のペースを乱され、彼女はちょっと戸惑ってしまったようだ。しかしすぐ毅然とした声で、彼に事情を話しだした。
『少し前に、テロリストからASを使った大規模なテロの予告がありました。今日の2400時、千葉市をASで襲撃すると。相手がどのくらいの兵器を保持しているのかは不明ですが、もし超高性能ASを持っていた場合、自衛隊では手が出ないんです』
 それは瞬も知っていた。以前東京ビッグサイト付近で起きた巨大ASと自衛隊ASとの戦いでは、自衛隊は成す術も無く倒されたのだから。
『ですから最新鋭の兵器を持った私たちが行くのがベストなんですけど……これから、日本を離れなくてはならないんです』
 瞬にも話が見えてきた。つまりは……
「私に、テロを止めるため戦え……と」
『そうです。一般人であるあなたに頼むのは心苦しいんですけど、〈ルーグ〉を扱えるあなたなら戦えると思いましたから。あの人もあなたに……いえ、なんでもありません。忘れてください』
 今のは失言だったようだ。電話越しにも、相手の慌てる気配がよく伝わってきた。
 ……あの人? 誰のことだ?
 大佐の物言いに疑問を覚えた瞬だが、尋ねはしなかった。深追いすれば、退路を断たれる。戦いも情報も、似たようなものなのだ。
「して、手筈は?」
『船橋市の埠頭にある倉庫……Y021へ行って下さい。そこには〈ルーグ〉を隠していますから。詳しいことは、そこにいる者へ聞いて下さい』
 〈ルーグ〉。以前も瞬が乗った事のある、最新鋭のASだ。凄まじい機動性を誇る、蒼いAS。
「……了解しました」
『それでは、幸運を祈っています』
 ブツ、と音がして、電話は切れた。
 しばしの沈黙。
「どうも……裏で、何かが働いているようだな……」
 瞬はぽつりと呟いてから、台所へ向かった。
「どうしたの? 結構長電話をしていたけど」
 鍋の中身をかき混ぜていた梢が、不思議そうに尋ねた。瞬は基本的に長電話をしないため、疑問に思ったのだろう。瞬は彼女の側へ行くと、
「悪いな。出かけることとなった」
 すまなそうに言った。
「え? じゃあ、今作っている晩御飯はどうするの?」
「カレーだから、一晩寝かせればいいだろう。メリルは料理が得意だから、彼女に手伝ってもらってくれ」
 彼の言葉の裏には、『夕食までには帰れない』という意味が含まれている。梢はうなずくと、不意に真面目そうな顔になって瞬へ尋ねた。
「ところで、どこへ行くの?」
 ……どう言うべきか。事実をありのままに話すと、大問題だろう。彼女までこのいざこざに巻き込んでしまう可能性があるのだから。かといって説明しないというのも不自然だし……。
 一瞬で考えをめぐらせると、彼は口を開いた。
「いわゆる『正義の味方』のボランティアさ。食事はどこか……商店街そばのファミレスにでも食べに行ってくれ。それじゃあ、後を頼むぞ」





同時刻 西太平洋 強襲揚陸戦艦〈トゥアハー・デ・ダナン〉



 通信機のスイッチを切ると、少女……テレサ=テスタロッサことテッサは艦長席に身を沈ませた。〈ミスリル〉が誇る巨大潜水艦、〈トゥアハー・デ・ダナン〉の艦長席にだ。彼女の隣りには、大柄なロシア人のアンドレイ=セルゲイビッチ=カリーニンが立っている。
「これで、安心してペリオへ行けますな」
 カリーニンは、いつも通りの声でテッサに言った。どっしりと大地に根を張る大木のような声が、薄暗い発令所に響く。
 ペリオ。太平洋に浮かぶ、小さな島国だ。現在〈トゥアハー・デ・ダナン〉は、そこへ向かっているのだった。目的は……テロの制圧と、化学兵器解体工場の奪取。現在ペリオでは、下手をすれば国が滅ぶというシビアな事件が発生している。
「ええ。〈ルーグ〉の戦闘データを見ましたが、彼ほどあの機体を使いこなしている人はいませんから」
 凛とした表情で言うテッサ。だがすぐに表情をほころばせると、
「それに……〈モリガン〉は彼のことを随分と気に入っているみたいですしね」
 とコメントした。ちなみに〈モリガン〉とは、〈ルーグ〉に搭載されているAIの名前だ。作ったプログラマーの趣味で人格を持っており、結構お茶目な性格をしている。
「しかし……」
 堅物そうな声が、2人の会話に割り込んだ。副長のマデューカスだ。彼は不機嫌そうに言葉を続ける。
「いくら人手不足とは言え、一般人……しかも子供にASを任せるのは問題だと思われますが」
 それは当然の意見と言えた。ミスリルは世界の10年先を行く最新鋭の装備を持っている。その中でも先行試作機である〈ルーグ〉を一般人である瞬に任すのだから、マデューカスのイライラももっともだった。
 しかしテッサとカリーニンは意外そうな顔をする。
「……マデューカスさん、知りませんでした? 彼は、『特別』なんですよ」
「特別……ですか?」
 怪訝そうな顔をする彼に、カリーニンは硬い声で言う。
「彼は例の組織が創った『プラン12』だ」
「…………なるほど」
 不満は消えなかったようだが、とりあえずマデューカスは納得したようだ。帽子をかぶりなおしてからため息をつき、再び口を開く。
「では、何故彼にテロ鎮圧の手伝いを?」
 当然の疑問であろう。いくら『特別』だからといっても、一般人にそのような危険なことをさせるべきではないのだから。「それは……ミスタ・ブレイドからの依頼なんです」
 テッサの答えに、マデューカスは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「また彼ですか。以前のテロの時といい、我々に注文をつけてくる……」
「だが、彼には世話になっているということを忘れてはいかん」
 生真面目な声で、カリーニンが言う。彼の目が湛えるものは、敬意だった。それは『彼』……『ミスタ・ブレイド』に向けられたものだろう。
「まったく……。情報部といいミスタ・ブレイドといい、我々を何だと思っているのか……」
 彼のつぶやきを聞いたテッサは苦笑し、そしてすぐに表情を引き締めた。
「さて……。それじゃあ私は、自分の部屋に戻りますね」
『イエス・マム』
 2人の男の敬礼を背中に受け、彼女は発令所から出て行った。





8月26日 1900時(日本標準時間)
千葉県 船橋市 埠頭




 腹に響くような轟音と共に、1台のバイクが走って来た。黒く塗られた車体は重厚で、厳つい印象を与える。
 〈ハーディー・デイトナ〉。それが、このバイクの名前だ。
 それにまたがって、瞬は埠頭を走っていた。連なる倉庫と街灯が、奇妙な非現実感を感じさせる。今遠くで鳴ったのは、東京湾を行く船の汽笛か。
「ここら辺のはずだが……」
 夜闇をライトで照らしながら、瞬はヘルメットの中でつぶやいた。
 それにしても、と彼は思う。
 何故自分が、テロの制圧に呼ばれるのだろうか、と。
 テロで犠牲者が出るのは避けたかったので以前はすんなりと戦ったが、どうにもそれから疑問が消えないのだ。
 〈ミスリル〉には〈ミスリル〉の事情があるだろうが、極秘組織であるはずの〈ミスリル〉が一般人にASを貸し与える。本当にこんなことがあるのだろうか、と彼は考えていたから。
 軍隊というのは、普通でなくても一般人に武器を触らせないはずだ。なのに彼らは、私にあっさりとASを貸し与えた。しかもあの機体は最新鋭機だという。世界の10年先を行く〈ミスリル〉の、だ。いかに特殊な組織である〈ミスリル〉とはいっても、ありえないのではないか。(……自分はまた、厄介ごとに巻き込まれているのだろうな。そう考えなければ、どうにも腑に落ちん。今度、詳細をカリーニン殿に尋ねてみるか……)
 などと瞬が黙考している間も、バイクは埠頭を走る。
 そしてほどなくして、扉の上に『Y021』と書かれた倉庫を発見したのだった。
「……ここか」
 バイクのエンジンを切ってヘルメットを脱ぎ、倉庫へ歩み寄る瞬。埠頭にありがちな倉庫だ。コンクリートの壁に、ドーム状の屋根。とても世界の中でも最高クラスで最新鋭の機体が保管されているとは思えない。だが……
「……何者だ?」
 街灯の光の陰となっている倉庫と倉庫の間……常人では気付かないであろう場所に潜んでいる気配へむかって、瞬は声をかけた。
 返事はない。だが、動揺した気配が伝わってくる。自分は見つからない、と自信を持っていたのだろう。
『〈ミスリル〉の者か? 私は大佐から依頼を受けた者だ』
 相手が日本語を分からない可能性も考慮して、今度は英語で話しかける瞬。だが、しかし。
「ははっ……。そうか、君が〈モリガン〉のお気に入りかぁ。なるほどね」
 やたらフランクな口調で帰って来た返事は、流暢な日本語だった。声の主は、喋りながら光の下へと姿を見せる。
「はじめまして。〈ルーグ〉のメンテを担当している技術士官の、カール=ブライドロゥさ」
 肩まで無造作に伸ばした生糸のような銀髪に、優しそうな目つき。体つきはほっそりとしており、まるで女性のような男だった。年齢は25歳ほどか。どうにもドイツ語読みで『カール』と呼ぶより、フランス語読みで『シャルル』と呼んだほうがしっくりくるように思える。
「それじゃあ、中に入ろう。〈モリガン〉がお待ちかねだよ」
 気楽そうに言うと、彼は扉を空けて倉庫の中に入った。それに続く瞬。
 ――中は、がらんどうだった。いつもは大量に保管されているであろう積荷は一切なく、ただ巨大な長方形のコンテナが一個だけ横たわっている。
「それじゃ、コンテナの中身を開放するよ」
 瞬に告げると、彼は懐からコントローラーのようなものを取り出し、ボタンを押した。
 ガチャン……
 何かのロックが外れる音が響き、コンテナの天井のとなっている部分が観音開きに開く。そして……中に入っていた蒼いASが、上体を起き上がらせた。
「…………中に、誰か乗っているのか?」
 その様子を見て不思議そうにコメントする瞬。だがカールは首を左右に振ると、自慢気に話し出す。
「戦闘はともかく、簡単な動作にもパイロットを必要としたら、面倒だろう? だからコンピューターに『動き』のデータを与えて、ある程度なら自動で動けるようにしたんだよ。幸い〈ルーグ〉にはAIが組み込まれているから、自己の判断で行動できるし」
「……それについては納得した……。……ところで、『ロボット3原則』というのは聞いたことがあるか?」
 1、ロボットは人間に危害を加えてはならない。また人間が危害にあうのを見逃してはいけない。
 2、ロボットは人間から与えられた命令に、1に反しないかぎり従わなくてはならない。
 3、ロボットは1,2に反しないかぎり自分の身を守らなければならない。
 〈モリガン〉と会話したことがある瞬は、どうにもこれが守られていないように思えたのだ。特に、2が。
「……う……。まあ、大丈夫だと……思うけど……」
(さては、『ロボット3原則』のことをすっかり忘れていたな)
 慌てるカールの姿を見て、苦笑する瞬。と、〈ルーグ〉が手を差し伸べてきた。
「分った分った。では、私は乗るぞ」
「ん……ああ。それと、一つ。君に言っておきたいことがある」
 彼の声が急に真面目なものになる。瞬は目を細めると、話を促した。
「君の戦闘データは見させてもらったけど、〈ルーグ〉を使いこなしているね。だからら『ブリューナク・システム』の使用を許可するよ」
「『ブリューナク・システム』?」
「ああ。機体性能にパイロットが追いつけないと無意味なシステムさ。とある機能を使って、機体の操作性と機動性を爆発的に強化するシステム。ただし、負荷が物凄いからね。絶体絶命になるまでは、使ってはいけないよ」
 口調はいつも通りだが、声は重い。そのシステムとは、よほど危険なものなのだろう。
「了解した。では、行って来る」
 カールに一つ敬礼すると、瞬は〈ルーグ〉の手に乗りコクピットへと駆け上る。そして人間で言う鎖骨の部分に隠されているレバーを捻った。圧縮空気が漏れる音がして、頭部が後ろにスライド。胸部装甲も僅かに動いて、コクピットが姿を覗かせた。
「おじゃまするぞ」
 小さくつぶやき、瞬は人一人がギリギリ納まるサイズのコクピットに身を滑り込ませる。
《シュン、お久しぶりです!》
「ああ。いろいろと改造されたようだな」
 瞬は〈モリガン〉の言葉に答えつつ、機動に必要な手順を次々と済ましていった。ジェネレーターが力を放ち、〈ルーグ〉の瞳に光が灯る。
「それじゃ、後は任せたよ。情報は随時、〈モリガン〉に転送するから」
 倉庫の扉を空けながら言うカール。瞬は外部スピーカーを通して『了解』と言うと、中腰の姿勢で機体を倉庫の外へ出す。そして電磁迷彩を発動させて姿を消し……モニターに浮かび上がった地図の示す場所へと機体を移動させ始めた。





8月26日 2000時(日本標準時間)
千葉県 幕張市



 すでに日も暮れ、夜空を月と星が照らしている。海は街の光を映してキラキラと輝き、砕ける波は夜光虫の淡い光を放っていた。
 そんな中に、数人の集団。全員黒づくめで、落ち沈んだ雰囲気を持っていた。まるで影の群れの如きである。
 彼らがいるのは、関係者以外立ち入り禁止である工場の敷地内だった。周囲にはRk−92、通称〈サベージ〉と呼ばれるASが何台も並んでいる。 そんな中にあって、一人が口を開いた。
「なあ……。オレたちは、本当にこれでいいのか?」
 彼に同調する意見が、別の口をついて出る。
「止めないか? 今からでも遅くはないぜ」
「そうそう。まだ、間に合うってば」
「僕は、できることならやりたくないよ……」
 次々に。
 だが、しかし。別の意見を称える者もいた。
「あななたち、それでいいの!?」
 凛とした女性の声が、夜闇に響く。影たちは、緩慢な動きで彼女を見た。
「だってよ、四希……」
 一人が反論しようとするが、彼女はキッと相手を睨みつけ、
「わたくしたちが、この国にどのようなことをされて来たと思っているの!?」
 鋭い声で言い返す。そう言われると、男も口をつぐむしかないようだ。
 まったく……。みんな、弱気なんだから……!
 四希と呼ばれた女性は内心の苛立ちを隠そうともせず次に言葉を続ける。
「この国に、償いをさせないといけないのよ! 先の『A21事件』を上回る被害でね!」
 A21事件とは、6月26日に発生した巨大ASを使ったテロだ。それは自衛隊によって鎮圧されたらしいが、人々の間に不安をかき立てることはできた。彼らにとっては無念だろうが、まあ……運が悪かったと言うしかない。
 そして自分たちがテロを決行したのは、8月12日だった。爆弾とASを使い、複数の目標を同時に狙った狡猾な作戦だったのだが……。
(くっ……!)
 四希はその時の事を思い出して、拳を握り締めた。
 順調にテロが成功するかと思った矢先、正体不明のASに部隊が壊滅されたのだ。自分は台場でレインボーブリッジを落とすチームだったのだが……目の前で成す術もなく仲間が撃破され、自分の乗機も一瞬で破壊されてしまった。
 テロリストたちの軍団『スピキュール』の中でもトップクラスの操縦技術を持つ自分が、何もできなかったのだ。
 それは彼女のプライドを傷つけ、また過去の記憶にあるトラウマを呼び覚ました。
(あのASを倒したい……! 殺された仲間の仇を討ちたい……!)
 その思いは、執念に近い。そして執念は、目隠しに近い。
「今回は強力なASもあるのよ! 大丈夫、平和ボケした軍隊なんて、物の数ではないわ!」
『その通りだぜ』
 突然虚空からかけられた声に、その場にいた全員がビクリとした。
「……な……誰だ!?」
 誰かが大声を張り上げる。姿なき声の主は、低く笑った。まるで嘲るかのごとく。
『声張り上げなくても、出て来てやるよ。こういうふうにな……』
 直後、何もない空間に雷光が走った。そしてインクが滲み出るように、黒いASが姿を表す。
 あちこちにつけられた、剣のような装飾。肩の装甲に彫られた、十字架にかけられたキリスト。細く、シャープな体つき。そして人間で言う顔の部分には、図案化された悪魔の顔があった。禍禍しいデザインだが、それにはどこか優美ささえ秘められている。
 細い腰に佩かれているのは、単分子ソードか。刃の部分が微細なチェーンソーになっていて、斬りつけた目標を『削り取る』武器だ。こちらのデザインは、西洋刀と同じ直刀であった。
『こいつは〈イニシャライズ〉。あの蒼い機体に対抗するために持って来た、最新鋭機さ。そしてもう一機!』
 〈イニシャライズ〉の隣りに、雷光が走る。そしてもう一機のASか、姿を表す。
 通常のASより、一回り大きい。ベースとなったであろう機体は〈イニシャライズ〉に似ているが、追加装甲が凄まじかった。しかも装甲は、ASを覆うようについている。ピストンやシリンダーが装甲の隙間から見えるということは、追加装甲そのものが電磁筋肉を内蔵していると考えて差し支えないだろう。そして不自然に大きいバックパックと、バックパックに接続された機体の全長に近い長さを誇る棒状のもの。
 鈍重そうな外見だが、パワーは凄まじいであろうという事が予想された。
『こいつが〈シュトゥルム〉。重砲撃ASさ。四希さんの「強力なASを」という注文通り、上等なのを持って来たぜ!』
 畏怖を促すような2機の出現により、彼ら……『スピキュール』の士気は目に見えて上がった。 
「さあ! みんな!」
 一歩前に出て、仲間へ激を飛ばす四希。
「このASたちが、敵を打ち砕いてくれるわ! 死んでしまった仲間の仇をとるために……行きましょう!」
 その姿は、まるで戦女神ヴァルキリーのようであった。
『おぉっ!』
 先ほどまでは腑抜けの集団だったような彼ら。しかし俄然勢いを取り戻した彼らは鬨の声をあげる。
 そしてAS……〈サベージ〉に乗り込んだ。その様子を満足そうに見た四希は、自分の〈サベージ〉に乗り込もうとするが……
『待ちな』
 〈イニシャライズ〉のパイロットに呼びとめられる。
「……何よ?」
 怪訝そうな顔をする彼女。外部スピーカーから、低い笑い声が聞こえて来た。
「……用がないなら、行くけど?」
「用ならあるぜ。しかも、あんたにとっていい話だ」
「いい話?」
 ますます怪訝そうな顔をする彼女。だがパイロットが話した事は、確かに彼女にとっていい話だった……。





8月26日 2320時(日本標準時間)
千葉県 幕張市



 狭苦しいASのコクピットの中へ、瞬はすでに3時間近くも入っていた。
 ここは幕張メッセの近くの公園である。市街地では身を隠すのに適さないので、彼はここで待機しているのだ。
《敵さん、来ないですね……》
 退屈さを持て余したのか、〈モリガン〉がぼやく。瞬は苦笑すると、
「そうだな。だが、予告時間は2400時だぞ? まだ、早いさ」
 とコメントした。
《確かにそうですねぇ。……どうします? 気分転換に、外の空気を吸いますか?》
「いや、大丈夫だ。それよりカールへ通信を開いてくれ」
 瞬の指示に従って、〈モリガン〉が通信をONにする。ほんの少しの時間も必要とせず、相手が応答に出た。
『はい、カールですけど』
「御崎だ」
『なんだ、御崎君か。どうしたんだい?』
 やけに緊張感の無い物言いをするカール。だが瞬は生真面目な声で、
「多少聞きたいことがあって、通信を開いた」
 と前置きしてから自分の感じている疑問を語り出した。
「何故最近、テロや事件が多いのだ? 順安事件、A21事件、同時ASテロ事件、そして今回のテロの予告。どれもASがらみの上、真相が不透明だ。『何か』が裏で動いている……。そのように感じるのだが。
 そして裏で動いている『何か』……複数あると仮定すれば、最低でもそのうちの一つは、私とも何か関わりがあるのではないか? でなければ『一般人が2回もASに乗ってテロリストと戦う』などという馬鹿げた事態を説明できないぞ。
 ……カール。何か知っているのではないのか?」
 しばしの沈黙があった。やがて意を決したような声が、通信機の向こう側から聞こえて来る。
『僕は……ただの技術士官だから、詳しくは知らない。でも、誰かが〈ルーグ〉を君に任せるように指示しているという話は、聞いたことがあるよ』
「誰か、か……。何者なのか、分るか?」
『ううん、分らない。〈ルーグ〉のことなら、結構分るんだけどね』
 カールが苦笑する気配があった。瞬も苦笑し、言う。
「参考になった。ありがとう」
『お安いご用さ。でも、他言無用だからね?』
「分っている。誰にも言わないさ」
 瞬は、『誰にも言わない』とはっきり言い切った。それが彼の処世術なのだ。
 しかし、瞬はふと思うことがある。
 このまま事情を深く知らずに歯車となって戦うこと。それに意義があるのだろうか、と。
 もちろん、重大な意義がある。彼が戦うことによって、罪の無い人々がテロで死ぬのを防げるのだから。だが……自分にとっては、意味があるのだろうか? 事情も知らず、命令通りにテロリストを殺すのだから。
 これでは殺人機械と同じではないか。
 いや……意志を持っている分、機械よりなおタチが悪い。
 悶々と瞬が悩んでいると、カールが独り言のように言った。
『迷っていても、とりあえずやるべきことはやらないとね……』
 その言葉は実際、独り言だったのかもしれない。しかし瞬の迷いを断つには、十分な言葉だった。
 迷って何もしないよりは、自分のやるべきこと……自分しかできないことをするべきだ。『あの時にやっていればよかった』と後悔しないように、やってから答えを探せばいいのだから。
(そうだな。今日はとりあえず、テロを鎮圧することに集中しよう)
 そう考えると、瞬の心は不思議と落ち付いたのだった。
「ところで……まだ予告された時間まで間があるだろう? 世間話でもしないか?」
『別に構わないけど……何を話そうか? 例えば……恋人のこととか?』
「恋人か。私にはいるのだが、君はどうなんだ?」
『何っ!? ……くそう。僕より年下なのに……羨ましいやつめ』
 悔しそうに、そして楽しそうに言うカール。
(親しみやすい奴だな。いい友人になれそうだ……)
 微笑しつつ、瞬はそう思った。
 と。
《シュン、緊急事態よ! テロが発生! ……もう、予告は2400時でしょう。まだ2320時よ!》
 〈モリガン〉が鋭い声をあげる。モニターには、次々と情報が現れ出した。洪水のようなそれを読み取り、瞬は〈モリガン〉へ命令する。
「関節のロック解除。ジェネレーター出力上昇。戦闘モードだ」
《了解!》
 ガコン、という振動がして四肢のロックが解かれた。瞬は降着姿勢を取らせていた<ルーグ〉を起き上がらせると、手早く計器のチェックをする。
「全機能、オールグリーン。ECSを継続しつつ、移動開始だ」
 声に出して安全を確認してから、瞬はASを走らせた。目標地は千葉市。テロの舞台だ。





8月26日 2330時(日本標準時間)
千葉県 千葉市



 街は、混乱の坩堝にあった。ミサイルの爆発が日の暮れた空を赤く彩り、残骸の上げる炎が闇を焦す。
 残骸。それは〈サベージ〉のものではない。自衛隊の戦車やヘリ、そしてAS〈九六式〉といったものだ。
「馬鹿な……こんなことが……ただのテロリスト如きに……」
 〈九六式〉を駆る軍曹が、呻くような声をあげた。コクピットの中は蒸し暑いと言うのに、冷や汗が止まらない。緊張で、脳の芯が麻痺したかのような感じがする。彼は自分でも知らない間に、操縦菅を強く握り締めていた。
 その間にも彼は機体を走らせ、索敵を行っている。僚機はいない。すでに撃破されていた。ただのテロリストに、である。
 つけっぱなしにした通信機からは、別のチームの声……悲鳴や怒号、叫び声が漏れ続けていた。
『ぐぁっ! 不明機にやられた! 援護を……!』
『こちら、ブレード3! ブレード1がやられた! 三尉の生死は不明!』
『ポイントE−03に新たな敵が出現! 増援を頼む!』
『や……やめろ! 死にたくない、死にたく……』
 戦況は……はっきり言って、不利であった。敵の数が多い上に、何機かバケモノじみた機体が存在するらしいのだ。現にレーダーに映る友軍機も、次々に反応を消失させていっていた。
 走る軍曹のモニターに、ビルとビルの間に身を沈めている敵の影が写る。軍曹は躊躇わずに照準、発砲した。40ミリライフルが徹甲弾を叩き出し、敵機……〈サベージ〉の左腕に命中、そのまま貫通する。
 慌てて振り返る〈サベージ〉だが、こちらのほうが反応が速い。胸の中央を狙い、軍曹はトリガーを引いた。
 衝撃。
「うおっ!?」
 突然の振動に彼は思わず声をあげる。〈サベージ〉を攻撃しようとした瞬間、ライフルを保持していた右手が吹き飛んだからだ。慌てて周囲を索敵するが敵の反応は無い。レーダーにも反応は無かった。
 破損した部分は、何かに打ち砕かれたようになっている。これは……ライフルのような、実弾兵器だろう。
「こちらのレーダーレンジ外からの狙撃だと……!?」
 相手の狙撃能力の高さに、軍曹は戦慄した。どこから撃たれているのか分らないのだ。見えないものへの恐怖が、彼を恐慌の縁へと誘う。
 その一瞬の間に、〈サベージ〉は立ち直っていた。右手のライフルをこちらに向け……発砲。
「うおっ!」
 ライフル弾は、機体の腰部を破壊した。様々な金属パーツが飛び散り、機体の上半身と下半身が泣き別れする。軍曹が乗ったままの上半身は十数メートルほど吹き飛び、アスファルトの大地に叩きつけられた。
「ぐぁっ……!」
 凄まじい衝撃が体中をゆさぶる。朦朧とする意識の中、〈サベージ〉が戦闘能力を失った自分にライフルを向けた。
 狂ってやがる。戦えない相手に銃を向けるなんて……。
 死神が迎えに来たことを感じながら、彼はそう客観的に思った。しかし、どうにもならない。
 そして相手がトリガーを引こうと……
 ……その時、異変は起こった。
 ザグっ!
 鋼を断ち斬る音が、火花と共に夜を染める。
 まるで疾風のように現れた正体不明の蒼いASが、今まさに〈九六式〉を破壊しようとする〈サベージ〉を叩き斬ったのだ。
 謎のASが手に持つ刀が、低い唸りをあげる。それはまるで、敵を屠った喜びを表現したかのようだった。流麗なシルエットが、炎に照らされ浮かび上がる。
 薄れゆく意識の中、彼は思った。あのASは何者だろう。もしかしたら、噂の傭兵組織『ミスリル』の機体ではないのか、と。



「現れたわね……!」
 ASのコクピットの中だというのに、四希は思わず叫んでいた。モニターに映る姿……見間違いようが無い。以前自分のASを叩き斬った、あの蒼い機体だ。
 以前は機体性能の差で負けた。そうに違いない。でなければ、自分が負けた理由がつかないではないか。だけど、今回は……
「今度は……負けないわよ」
 彼女はそう言うと、トリガーを引いた。自分の乗る機体……〈シュトゥルム〉はそれに答え、破壊の力を解放する。空気を裂く一発の弾丸が、蒼いASめがけ放たれた。
 命中を確信した四希だが……相手はこちらがトリガーを引くのと同時に走り出している。そして弾丸は、きわどいところで外れてしまう。
「うっ……! 悪運の強い……!」
 回避したのを運だと言い切り、彼女は再び蒼いASに照準する。凄まじいスピードで動いているが、まだ狙いをつけられないほどではない。モニターに照準が表示される。
「ターゲットロック! ファイア!」
 凄然と微笑むと、彼女は再びトリガーを引いた。



「冗談にならないな……。ロングレンジからの、砲撃か!」
 機体を猛スピードで走らせつつ、瞬はつぶやいた。口調と動作は冷静だが、額に汗をかいている。
 レーダーで相手の位置を感知した〈モリガン〉が警告してくれたおかげで初弾は回避できたが、これ以降も回避しつづける余裕はハッキリ言って無いのだ。
 しかも悪いことに、遠距離から砲撃してくる機体は街を挟んで〈ルーグ〉と点対称の位置にいた。相手の所に行くには、敵が闊歩する街を行かなくてはならない。側面から回り込もうと考えもしたが、逆に側面からの不意打ちを受ける可能性が大きくなるのでやめておいた。
 つまりは、正面突破を決意したわけである。力押しだが、相手はほとんどが〈ルーグ〉より性能の劣る〈サベージ〉だ。やってできないことはない。
 瞬はとりあえず手近な〈サベージ〉に狙いを定めて、機体を突進させた。
 相手はこちらにマシンガンを向ける。だが、甘い。相手が照準するより速く、瞬はATD……対戦車ダガーを投げつけた。灼熱した刀身が、敵機の胸の中心に突き刺さる。
 飛び散る火花。装甲を貫いたATDは、パイロットを焼き殺していた。搭乗者を失って崩れ落ちる〈サベージ〉を一顧だにせず、瞬は次の獲物を探す。
 手に持つ超振動ブレードが唸りをあげた。凄まじいスピードで刀身を振動させ、相手を切り裂く武器だ。生半可な装甲など、発砲スチロールのように切り裂いてしまう。現に……
「おおっ!」
 鋭い気合の声と共に振るわれた超振動ブレードが、一機の〈サベージ〉を横一文字に切り裂いた。装甲などものともしない。ガソリンに火花が引火して、哀れ〈サベージ〉は火柱になってしまった。
 高々と上がる黒煙を裂いて、殺気が迫る。直感に従い身を沈めた〈ルーグ〉の頭上を、超音速の弾丸が通りすぎて行く。……いや、通りすぎて行ったと思われた。弾速が速すぎて、超高速モモニターでさえ捉えられないのだ。ただ、衝撃波と煙に空いた穴で弾丸が通過したのが分るだけなのである。
「この弾速……射程距離……そして威力。ライフルなどではない。一体、何だ……?」
 3機目の〈サベージ〉をATDで破壊した瞬は、街の向こうにいるであろう狙撃手をモニター越しに睨み付けた。



「また外れた!?」
 〈シュトゥルム〉で何度目かの狙撃を失敗した四希は、思わず声をあげていた。狙いは正確、距離があるから発射のタイミングも気付かれていないはずなのに……ことごとくが回避されているのだ。
 以前負けたのは、単純にASの性能の差だと思っていた。信じていた、と行ってもいい。しかし事実は違ったようだ。向こうのASを駆る者は、間違い無く超一流だ。そうでなければ、自分が当てられない訳が無い。
「やるわね……。でも、負けない!」
 相手がどう動くか予想し、銃口を予測地点へ向ける四希。そして精神を集中し、トリガーを引いた。
 大型のバッグパックに積まれたジェネレーターが生み出す大電力が、肩に背負った『大型リニアレールガン』……通称『マスドライバーキャノン』へと注ぎ込まれる。通常は半分ほどの長さで畳まれている銃身は現在真っ直ぐに伸ばされ、15mほどもあるその威容を晒していた。
 砲身へ注がれた莫大な電力は砲身に仕込まれたレールへ注がれ、電力を餌にしてそれは磁界を形成する。そして発射された特殊弾が磁界を通る時に『フレミングの左手の法則』……つまり『ローレンツ力』が発生。凄まじい力に引っ張られ、特殊弾は音速を楽に超えるほどの加速を得て打ち出された。
 この機体……〈シュトゥルム〉は、『マスドライバーキャノン』のために作られた機体だと言っても過言ではなかった。その余りあるパワーは凄まじい重量となる長大な砲身を支え、バッグパックは『マスドライバーキャノン』に電力を送り込むため……それだけのために装備されているのだから。リニアレールガンの威力は、磁界を生成するレールの長さとそれに流される電力に比例する。だからこそこのような重装備のASを作り出したのだろう。
 80ミリ特殊弾は空気を切り裂いて飛ぶ。怨みと誇りを乗せ、蒼いASを目指して。



 一条の光と化した超振動ブレードが、夜空へと立ち上る黒煙と共にビルを両断する。風が唸り、ガラスが砕け散り。そして……〈サベージ〉が唐竹に叩き斬られた。
「これで6匹……」
 鋭い息吹で頭の中のモヤモヤしたものを吹き飛ばし、瞬は幽鬼のようにつぶやく。今日の彼の太刀筋は、冴えに冴えていた。
 『心剣一如』、という言葉がある。心と剣、その両方を一つにする……つまりは刀と一体化するという意味だ。まさに、今の瞬がそれであった。様々な感情を制御し、破壊衝動と殺意のみを刀に乗せて斬っているのだ。
 武器は使い方しだいで、人を救えると言われている。
 嘘だ。
 武器とは本来、破壊し、殺戮し、粉砕するためにあるのだから。たとえ命を救ったとしても、救った命の数倍の命を奪っていた事に変りはない。
 そういう意味では、瞬はASを見事に使いこなしていた。破壊を振り撒くことのみを目的にしているのだから。
  まるで剣を使って舞踏を踊っているような戦い方だった。主役は〈ルーグ〉、踊りの相手は〈サベージ〉。〈ルーグ〉は次々と踊る相手を入れ替え、夜の闇に火花を散らせる。時たま走る赤い光は、ATDの閃きか。15ミリチェーンガンの残光は、噴水のようだった。 
 踊り続ける瞬の背中を、今日何度目かの悪寒が走った。切り結ぶ相手に蹴りを入れて、舌打ちをすると彼は機体を大きく後ろへ跳ばす。
 ガゴォっ!
 鋼が砕ける轟音がして、蹴りを食らってのけぞっていた〈サベージ〉の胴体に風穴が開いた。瞬めがけて放たれた狙撃が直撃したのだ。弾丸はコクピットを貫いている。瞬は頭のどこかで、味方に撃たれて死んだ相手パイロットの無念さを思った。
 だがその思いも一瞬のうちに消え、彼は逡巡する敵機を相手に踊り始める。
 殺気はなおも膨れ上がり、心はなおも燃え滾る。嵐のように、炎のように。輝く剣閃と爆発を引きつれて。彼は踊りの相手たちを見据え、外部スピーカーを作動させるとドスの効いた声で言う。
「ザコどもが……。待っていろ。貴様ら残らず殺してやる……」
 まるで、地獄から響いてくるかのような声である。その声に恐れをなしたのか、〈サベージ〉たちは一斉に退却をはじめた。
 と。
『敵を目の前にして逃げ出すなんて……てめぇらそれでもテロリストか!』
 黒煙の向こうから、瞬を凌ぐほどの殺気がこもった声が響く。そして……
『おらぁっ!』
 咆吼と共に、黒い旋風が吹き荒れた。
 否。旋風ではない。
 それは、漆黒のASであった。悪魔のようなシルエットの、背教的な機体だ。黒いASが、凄まじいスピードで〈サベージ〉たちの間を駆け抜けたのだった。
 次の瞬間には逃げようとした機体……つまり全機の〈サベージ〉が横一文字に断たれ、爆発する。
 爆発の中に浮きあがる姿……。瞬はそれに見覚えがあった。以前同時テロが起こったとき、この〈ルーグ〉と互角に戦ったテロリストの駆る機体だ。スピードなら〈ルーグ〉が上だが、パワーなら敵機が上。
 できるなら二度と戦いたくない相手だな、と瞬は思った。それと同時に、決着をつけたい相手だな、とも。
 突然、〈ルーグ〉の通信機が強力な電波をキャッチした。
《これは……強制通信ね。たぶん、砲撃している機体からのものよ》
 モリガンが説明を入れる。それを聞いた瞬は、この通信に疑問を持った。何故、通常通信を使わないのか、と。
『どういうことなの!?』
 通信機から、気の強そうな女性の声が聞こえて来た。彼女は瞬をして感心するほどの気迫で、通信相手……おそらく黒いASに叫ぶように言う。
『仲間を援護するのではなく、攻撃するなんて! そんな話、聞いていないわよ!』
『なら、あのまま敵前逃亡させればよかったのか? 仇なんだろう?』
『今、あなたも仇になったわ! ここで撃ち殺してあげようかしら!?』
 通信機の向こうで、電子機器の音がした。音を拾うタイプの通信機を使っているのだろう。先程の音は……ターゲットをロックした音か。
 だが黒いASは肩をすくめると、言い返す。
『それじゃあ、ここで俺と青いのがタッグを組もうか?』
(こいつ、何を言い出す……)
 一瞬反論しようと思った瞬だが、それを理性で押し留めると沈黙をまもった。次に黒いASのパイロットが何を言うのか、気になっていたのである。
『で、兄弟。そういうことなんだが、俺と手を組まないか?』
『ち……ちょっと、待ちなさい!』
 無線だというのに、相手の慌てる様子が手に取るように分かる。一連のやり取りを聞いた瞬は、無線機を開くと小声で言った。
「好き勝手言っているようだな。私はどちらとも組むつもりは無い」
 2人の話を聞いている限り、黒いASもテロリストが乗るものだ。ならば、手を組むわけにはいかない。瞬はそう思ったのだ。
 黒いASが、肩を落とした。そしてぽつりとつぶやく。
『あ〜あ……。兄弟なら、俺の仲間になってくれると思ったのにな……。……それなら! ここで死ねよ!』
 言うが早いか、黒いASは〈ルーグ〉へ向かって突っ込んだ。そのスピードは、瞬が驚くほど速い。明かに、以前より強化されている。
「くっ!」
 叩き下ろすような一撃をかろうじて回避した瞬は、体勢を崩した相手へ斬りかかろうとする。が、彼は反射的に機体を後退させた。何故だか分らないが、そうしたほうがいいような気がしたからだ。
 コンマ数秒前まで彼のいた空間を、衝撃が駆け抜けた。リニアレールガンでの狙撃だ。追撃をしかけていれば、瞬は死んだだろう。
『よう、兄弟。この前は挨拶もせず悪かったなぁ!』
 体勢を立て直しながら、黒いASは叫ぶ。しかし……奴が連呼している『兄弟』とは、どういう意味だ?
 そう頭の片隅で考えながら、彼は機体に次の行動を取らせる。ATDを投擲。
 だが、しかし。光の閃きと化した破壊の一閃は、あろうことか敵機の斬撃によって斬り払われてしまった。
『甘いぜ! この程度の攻撃、“プラン12”である俺が見切れないとでも思ってんのか!?』
 ……“プラン12”。今、パイロットはそう言った。“プラン12”と。
「貴様……その話、真実か!?」
 相手の猛攻を受け止めながら叫ぶ瞬。その声は、劇的なほどに変化していた。憎悪や哀しみといった負の感情を込めた、人と思えないほど恐ろしい声。悪魔の呻きか、天使の悲鳴か。
『おう、嘘じゃねぇぜ。だから俺たちは、兄弟ってわけだ!』
 それを聞いてもなお、絶え間無く攻撃を繰り出す相手パイロット。
『兄弟! 人を殺すのって楽しいよなぁ! 自分の力によって、他人の人生を踏みにじってやれるんだから!』
「黙れ!」
 敵の斬撃を受け止めると、瞬は肩からの体当りを食らわせた。吹き飛ぶ相手に追撃をかけようとするが、リニアレールガンでの牽制がそれを阻む。
『兄弟の本質もそうなんだろう!? 知っているんだぜ! なんせ、俺がそうなんだからな!』
「黙れと言っている!」
 体勢を立て直した敵機に斬りかかる瞬だが、相手は足元にATDを投げつけた。地面が爆発し、砂煙で視界が覆われる。
『本質を解放してみろよ! きっと、テロの素晴らしさが分るからさ!』
「貴様がやっているのは、快楽殺人だ!」
 砂埃を突き破って急襲して来る黒いAS。チェーンガンの斉射を、瞬は身を低くして防いだ。低い姿勢で突進。相手を迎え撃つ。
『はーっはっはっ! ホンネ、タテマエ! そんな下らない事でやるテロが、間違っているというのか!?』
「当然だ!」
 まるで竜巻二つが荒れ狂っているかのような2人の戦い。だが、その間で交される『思い』はさらに激しかった。真っ向からの、人間性と倫理観のぶつかり合い。互いが互いを否定する。
 互いが互いを殺そうとしていた。その存在全てを。
 ガゴォッ!
 突然、〈ルーグ〉を衝撃が揺さぶる。
《被害軽微! 左肩のショルダーガードが破損! 実弾兵器を被弾した様子!》
 〈モリガン〉が、被害状況を知らせた。しかし今の一撃、黒いASのものではない。あの機体も〈ルーグ〉と同じく、接近戦専用の機体なのだから。つまり、もう一機の狙撃が肩のパーツを破壊したのだ。
『さっきから聞いていれば、好き勝手言ってくれるわね!』
 通信機を通して、怒りのこもった声が〈ルーグ〉のコクピットに響く。
 その声を聞いた瞬は、過去の出来事を思い出した。泉川駅で、爆破テロを未然に防いだときの事を。あの時に出会った女性の悲しそうな目と声が、記憶に残っていたのだ。そしてその声は、無線機を通しても変ってはいなかった。
「お前は……泉川駅を爆破しようとした奴か!?」
 少しの沈黙があった。そして、驚きのこもった声が帰って来る。
『それじゃあ、あなたが……あの高校生なの!?』
「その通りだ! 何故、自らの手を血に染める!」
 瞬は、いつにも増して強い口調で尋ねた。
『憎いからよ!』
「何を憎む!」
『わたくしを不幸にしたこの国を! いえ……全てをよ! だからわたくしは、テロをしているの……!』
 全てが憎い、と彼女は言った。
 瞬も、過去には『全てが憎い』と言っていた。
「ふざけるな!」
 彼は心の奥の怒りを吐き出すかのように一喝する。過去に起こった出来事の記憶が、瞬の意識下を走りまわった。
「貴様の過去に何があったのかは知らんし、知りたくも無い! だが、自分の不幸をテロによって広める事が正しいのか!? 正しい訳など無いだろうが!」
『……!!』
「貴様らのテロに巻き込まれた人のことを、考えた事があるのか!? 貴様らは、そいつらを不幸にしているんだぞ!」



『――貴様らは、そいつらを不幸にしているんだぞ!』
 無線を通して青年の一喝が、黒いAS……〈シュトゥルム〉のコクピットに響いた。
 自分たちが……不幸にしている?
 不幸にされた腹いせに、他人を不幸にしているの?
 違う!
 わたくしは……そんなこと、したいんじゃない!
 では……どうしたいのだろう?
 テロ以外でも、何かできたんじゃないのか?
 では、何を?
 両親は、自分を残して死んだ。孤児になった自分は、施設に引き取られた。学校では、親のいない子供としていじめられた。中学でも高校でも、それは同じだった。
 だから自分は施設を出た。そして『スピキュール』の仲間と出会い、テロに身を投じたのだ。
 両親がいない寂しさは、いじめられた怒りは……『スピキュール』の仲間が慰めてくれた。みんな、根はいい人だったんだ。
 でも……死んでしまった。悠も、功治も、麗佳も。蒼いASと、〈イニシャライズ〉に斬られて。
 わたくしはこの国を怨んできた。それは、間違いだったのかしら?
 別の生き方をすることができたのかしら?
 死んだ仲間たちも、別の生き方をすれば死なずにすんだのかしら?
 …………。
 分からない。
 ただ……これだけはハッキリと言える。
「わたくしは……誰も、不幸にしたくない! でも、あなたたちを許せない!」
 四希はそう叫ぶと、リニアレールガンのトリガーを引いた。



 2機のASは、凄まじい速さで戦っていた。
 1機は、瞬の駆る蒼いAS〈ルーグ〉。もう1機は、黒いAS〈イニシャライズ〉。互いの剣速は互角。パイロットの腕もほとんど差が無い。
 あるときは密着し、あるときは離れ。そして岩をも断つ剛剣が振るわれる。それも、一呼吸に十回以上のスピードで。
『ハーッハッハッハ!!』
 〈イニシャライズ〉のパイロットは、笑っていた。外部スピーカーをONにしているのだろう。炎が彩る街を、狂気の滲んだ声が書けぬける。
『そうそう、その調子だよ兄弟! もっと踊ろうぜ! ハハハ!』
『黙れ!』
 瞬の一喝は、無線を通してのものだった。相手のコクピットに殺気のこもった声が響く。だが、敵は怯むどころかさらに耳障りな笑い声をあげた。
『つめてぇな、兄弟! せっかくいい気分なんだ……。もっとハイになったらどうだい!?』
 高速で走りつつ、叫ぶように言う相手パイロット。
 大上段から振り下ろされる斬撃を、瞬は渾身の力で受けとめた。単分子ソードと超振動ブレードが火花を散らし、耳障りな金属音をあげる。
『ぬぅ……おおあああぁっ!』
 機体の出力を全開にして、瞬は超振動ブレードを力任せに押し上げた。ジェネレーターが唸りをあげ、全身の電磁筋肉が莫大な力を放つ。尋常では無い瞬発力が、〈イニシャライズ〉を吹き飛ばした。
『うおっ!?』
 声をあげつつも体勢を空中で強引に立て直す〈イニシャライズ〉。そのスキを逃さず、瞬は追撃をしかけた。
 胸部から多弾頭ミサイルが2連射される。多弾頭ミサイルとは、通常のミサイルの内部に小型のミサイルを装填してある兵器だ。威力は低いが目くらましとして使う事ができる、言わば牽制用の火器である。
 ボン!
 低い破裂音と共に、ミサイルが小さな弾頭をぶちまけた。それと同時に〈ルーグ〉も地を蹴り、相手へ肉薄する。
『チィッ!』
 舌打ちするのももどかしく、〈イニシャライズ〉はチェーンガンを掃射した。弾幕がミサイルを迎撃し、それらが爆発。他のミサイルも次々誘爆し、爆炎が上がった。
『おおおおおっ!』
 爆炎を突っ切り、〈ルーグ〉が突進してくる。だが〈イニシャライズ〉のパイロットは、それを予測していたようだ。
『甘いぜ、兄弟!』
 外部スピーカーがあざ笑うかのような声を外部に響かせる。〈イニシャライズ〉の胸部装甲がスライドして、内蔵式ガドリングガンがその無骨な姿を表した。6つの銃口が回転を始め……弾の嵐が〈ルーグ〉を襲う。
「くっ!」
 瞬は小さく呻くと、機体を全速で下がらせた。だがその程度でガドリングガンの威力が軽減できるわけでもない。毎秒25発という猛烈なスピードで連射される弾丸が、装甲をガリガリ削った。
「このままでは……まずいな……」
 ビルを遮蔽物にして、弾の嵐をしのぐ瞬。
 だがそこのビルは、リニアレールガンでの攻撃によって砕け散った。
 崩壊するコンクリート。その崩れ落ちる下に、瞬は見付けた。
 逃げ遅れて縮こまっている……小さな女の子がいたことを。
 彼の心の中を、トラウマとなっている過去の記憶が走った。
「ちぃっ!」
 舌打ちをして、女の子をなんとか助けようとする瞬。降り注ぐコンクリートから彼女を守るために超振動ブレードを彼女のすぐ上へかざす。こうすれば、ガレキの直撃を防げるからだ。
 だが……
『どうした、兄弟!? 動きが止まっているぜ!』
 <イニシャライズ〉の蹴りが、<ルーグ〉を吹き飛ばす。衝撃に揺さぶられるコクピットの中、瞬はモニターに映る映像を見つめていた。ガレキが、女の子の上に降り注ぐ映像を。
 どくん。
 鼓動が早くなる。全身が燃えそうだ。怒り。後悔。無力感。
 心の傷が悲鳴をあげた。あのとき、自分は彼女を助ける事ができなかった。そして、今回も。
 自分は、女の子一人助ける事ができなかったのだ!
 炎のような血の流れが、体中を焦す。力が……負の感情によって生じた力が、全身を粟立たせた。
「〈モリガン〉……」
 氷のような声で、瞬は忠実なAIへと指示を下す。
「全リミッターカット。『ブリューナク・システム』始動だ」
 ……その声が、合図だった。
《イエス・マスター。全装甲をバージ(切り離し)。システムを起動します》
 〈モリガン〉が、いつもと打って変わって重厚な声で告げる。そして……
 ボン!
 炸薬が弾ける音と共に、傷ついた外部装甲が全て弾け飛んだ。
 その下から覗くのは銀色の装甲。……いや、それを装甲と呼んでいいものかどうか。それは電磁筋肉を被う皮膚のような形をしていたのだから。
 銀色に輝くシルエットは、ASと呼ぶのには違和感がある。あまりに人間に酷似しているのだ。今の〈ルーグ〉は、まるで銀色の巨人のようだった。
『どうした兄弟! コケ脅しかい!?』
 挑発するような口調でガドリングガンを連射する〈イニシャライズ〉。しかしその弾丸が〈ルーグ〉に到達するより早く、銀色の巨人は疾駆した。
 白く輝く光を身に纏い、〈ルーグ〉は走る。ASの常識を凌駕するスピードは、雨のように降り注ぐ弾丸が体に触れる事すら許さない!
『やるじゃねぇか!』
 飛び道具は無駄だと悟った〈イニシャライズ〉はガドリングガンの連射を止め、単分子ソードを構えた。接近戦で動きを止めれば、機体の機動性など関係ないのだ。
 〈イニシャライズ〉に、〈ルーグ〉が突っ込む。
 ガキィッ!
 派手な金属音と火花が散る。組み合ったその一瞬に、〈イニシャライズ〉は奥の手を作動させた。
 カチリとスイッチが入る小さな音がして、腹部装甲が爆発する。パイロットが、腹部に仕込まれていた指向性散弾地雷を爆破したのだ。コンクリートを楽々貫く金属片と猛烈な爆風が、組み合っている〈ルーグ〉へ至近距離から襲いかかる。回避は不可能。〈イニシャライズ〉のパイロットは勝利を確信した。
 だが、しかし。
 爆風が届くより一瞬速く、〈ルーグ〉は真横へ飛ぶように移動する。その動きは慣性と自重を完全に無視していた。機体を包む白い光が、よりいっそう輝きを増す。
『ちっ!』
 舌打ちをするのももどかしく、〈イニシャライズ〉はチャフをぶちまけた。〈ルーグ〉に勝てないと判断して、退却するつもりなのだ。
 ――逃さん……!
 背筋が寒くなるような瞬の声が、〈イニシャライズ〉のパイロットの脳内に直接響いた。
『ハーッハッハッハ! 久しぶりだぜ、恐怖を感じたのは!』
 哄笑をあげながら、〈イニシャライズ〉は身を沈める。その直後にザグッ、という轟音と振動が響き、機体の頭部が切り落とされた。
 このままいけば〈イニシャライズ〉は斬り捨てられていたのだろうが……そこに横槍が入る。リニアレールガンでの砲撃だ。
 上体を捻って回避した〈ルーグ〉は、ターゲットを〈イニシャライズ〉から〈シュトゥルム〉へ変更する。そして身を沈ませて体中のバネを蓄えると、一気に跳躍した。
「そんな!?」
 〈シュトゥルム〉のコクピットの中で、四希は悲鳴にもにた声をあげる。〈ルーグ〉がブースターも何も無しで、100m近くも跳躍したのだ。
「どうなっているの、いったい……!?」
 化け物のような機動性を発揮する〈ルーグ〉に戦慄する彼女。操縦桿を握る手が、小刻みに震えていた。
 物理法則を無視して〈シュトゥルム〉へ迫る〈ルーグ〉。絶望的な恐怖を感じた四希は、声にならない悲鳴をあげながらトリガーを引いた。
 ドガン!
 轟音と共に80ミリ特殊弾が発射される。空気を切り裂いて飛ぶそれは、しかし〈ルーグ〉を捕らえる事ができなかった。
 一瞬のうちに〈ルーグ〉は、〈シュトゥルム〉の懐へ飛び込んでいたのだ。密着されれば、いかなリニアレールガンと言えど邪魔なだけである。やもなく単分子カッターで応戦しようとする四希だが……
 ザグッ!
 〈ルーグ〉の振るった超振動ブレードが、〈シュトゥルム〉のコクピットのすぐ側を貫いていた。制御コンピューターを失い、崩れ落ちる〈シュトゥルム〉。
 その一撃は〈シュトゥルム〉を貫いた。しかし四希は、傷一つ負っていなかった。それは偶然なのか、瞬がねらってやったものか。それは彼のみが知っている。
 偶然か必然かで命を救われた四希は、一切の動作が反応しなくなったコクピットで子供のように泣いていた。恐怖で堰が切れたのか、それとも戦闘が終わって緊張が切れたのか。
 そう。戦闘は、終わっていた……。





8月26日 2350時(日本標準時間)
千葉県 千葉市



 燃える市街地は消防隊の懸命な消火活動によって、吐き上げる黒煙の量を徐々に減らしている。救急隊も街のあちらこちらに散って、怪我人を助けている事だろう。
 そんな街の様子を見ながら、カールはタバコの紫煙を夜空へ向けて吐きだした。紫色の煙はゆっくりと夜空へ登って行き、闇へと溶けて消える。
 港は静かだ。街の喧騒が風に乗って聞こえて来るくらいで。それと……〈ルーグ〉がこちらに歩いて来る足音がするくらいで。
(まさか、『ブリューナク・システム』を使いこなすとはなぁ……)
 彼は紫煙を吸い込み、半ば呆れ顔で思った。
 正直カールは、人間にこの機体が使いこなせるとは思っていなかった。……今日の、瞬の戦いを見るまでは。
 反射神経と動体視力はもとより、あの精神力。システムを発動した〈ルーグ〉を使いこなしているを見た時、彼は畏怖という言葉の真の意味をはじめて知ったような気になった。
 もっとも、無事というわけにもいかなかったようだが……。
 圧縮空気の漏れる音がして、銀色の巨人の胸部装甲がスライドする。だがしかし、しばらく瞬は出て来なかった。
「ぬぅっ……」
 小さな呻き声が、中から聞こえる。そしてやっと彼が姿を表した。疲労困憊で、今にも倒れそうだ。
「大丈夫かい?」
 本気で彼を心配して尋ねるカールだが、瞬は苦しそうな顔で……それでも苦笑しつつ、応えた。
「かなり辛いが、死ぬほどではない……」
 大丈夫なのか大丈夫ではないのかハッキリしない喋り方。彼らしい物言いだと、カールは思った。
 瞬はコクピットハッチのすぐ近くから下ろされたポリマー樹脂製の縄梯子をゆっくりと下りて、地面に両足をつく。足元が多少おぼつかないが、確かに大丈夫そうだ。
「……しかし、なんなのだ? あの『ブリューナク・システム』というのは……?」 彼は銀色の巨人を見上げ、ぽつりとつぶやいた。その目は、力強い仲間を見つめる目であり、恐ろしい怪物を見つめる目であった。「あぁ、それはね……」  瞬のつぶやきに答えて、カールは説明を始める。 『ブリューナク・システム』。
 『貫くもの』の名を冠するそれは、〈ラムダ・ドライバ〉と呼ばれるものに類似しているシステムである。斥力場を自重軽減と慣性の中和に使い、機体に爆発的な機動性を与える試作段階のシステムだ。かなり強力なポテンシャルを秘めていて、自重軽減に至っては重量をゼロにしてしまうことすら可能である。
 ただし搭乗者の人間離れした反射神経と動体視力、何よりシステムを維持するための精神力が要求されるという問題があった。
「なるほど……」
 彼の説明に納得して、再び瞬は〈ルーグ〉を見上げる。
(システム発動後に襲ってきた頭痛と奇妙な感覚は、そのためのものか……)
 奇妙な感覚。それは、自分が〈ルーグ〉と一体化したかのような感覚の事だった。もしそのことをカールに話したなら、彼は「そんなこと有り得ない。錯覚だ」と答えただろう。しかし瞬は現に、それを感じていた。だからこそ、人知を超えた動きをする機体を完璧に操れたのだ。
「あーあ……。装甲の取り付けが大変だよ……」
 事後処理にやって来た〈ミスリル〉の技術者の一人が、〈ルーグ〉を見上げながらぼやく。
「ふむ……」
 瞬は腕を組むと、カールに声をかけた。
「……何故〈ルーグ〉は、システムを発動させると装甲を切り離すのだ?」
 もとから装甲をつけなければ、手間もかからないのに。彼は言外にそういう意味を含ませていた。
「それは、簡単な事だよ。この状態の〈ルーグ〉は耐久性が無いからね。通常使用するなら、装甲が無いとすぐに壊れちゃうんだよ」
「しかし……システムを起動したら、自重を軽減できるのだろう?」
 するとカールはチッチッチ、と指を振り、
「装甲があると、いろいろ問題があるんだよ。放熱や関節の干渉、それから自重軽減の許容量……」
「分かった、分かった」
 得意そうに講釈しようとするカールを軽く制すと、瞬はまだ燃える街のほうを見る。
「ところで、あの黒いASはどうなった?」
「あの機体は、取り逃がしたらしいよ。まあ……〈ルーグ〉と互角に戦える機体に、〈九六式〉が敵うわけ無いしね」
「そうか……」
 つぶやく瞬の声には、残念そうな響きが露骨に込められていた。
「どうしたんだい?」
 気になったカールが尋ねると、彼は凄絶な笑みを浮かべて答える。
「奴は言った。自分が“プラン12”だと。ならば殺すのみだ。次に会った時が、楽しみだよ」
 瞬の体から放たれる禍禍しい気配に圧されたかのように、カールは一歩下がった。冷や汗をかいているのは……たぶん、瞬のせいだ。
(……彼は何者なんだ?)
 知れば知るほど底が見えなくなる瞬。カールは瞬に強い興味を持った様子だった。
 ……と。数人の兵士に連れられて、一人の女性がこちらへ歩いて来た。呆然自失といった様子で無気力になっている彼女だが、瞬はその顔に見覚えがある。
「彼女が、重ASのパイロットだな」
 連行して行く兵士に尋ねる瞬。彼は答えるべきか否か逡巡したものの、後ろにいるカールが首を縦に振ったので「そうだ」と答えた。
「……名は?」
 短い問い。彼女は虚ろな視線を瞬に向ける。その目が一瞬、驚きの色を湛えた。
「……あなたは……あの時の……?」
「そうだ。私の名は、御崎瞬という。……再度問う。君の名は?」
 彼女は少し戸惑ったような様子を見せたが、やがてゆっくりと答える。
「わたくしの名は……久森四希……」
 ……久森、四希か。
 口の中で小さくその名を反復した瞬は、彼女と目を合わせて言った。
「久森。これから自分は何をするべきか……何ができるのかを考えろ。……以上だ。邪魔して悪かったな」
 微笑して答える兵士たち。彼らは四希を連れ、ヘリの中へ入って行く。
 モーターが高音を奏で、機体がゆくっりと浮きあがる。夜空へ舞い上がったヘリは、南へ向かい飛んで行った。
「……彼女は、どうなるんだ?」
 ヘリを見送る瞬の口をついて、そんな言葉が出る。隣りで同じように見送っていたカールは、腕を組んで考え込んだ。
「うーん……。どうなるんだろうか……。向こうでの彼女の態度次第だと思うな」
「そうか……」
 瞬は、それ以上尋ねなかった。一つ大きなため息をつくと、倉庫の側へと歩いて行く。
「どこへ行くんだい?」
「帰るんだよ。友人が心配している」
 バイクにまたがり、ヘルメットをかぶりつつ彼は言った。カールは微笑すると、彼に敬礼する。
「それじゃあ、おやすみ。また何かあったらよろしく頼むよ」
 彼は冗談のつもりで言ったのだろう。しかし瞬の反応は予想していたものと違った。
「敵が“プラン12”の場合は、いつでも呼んでくれ。では、またな」
 カールに敬礼を返すと、彼は風のように去って行く。バイクの排気音が聞こえなくなってから、カールはフィルター近くまで灰になっていたタバコを携帯灰皿にしまう。そして溜め息混じりにつぶやいた。
「やれやれ……。彼には彼なりの事情があるのだろうね……。まったく、不思議な高校生だよ」
 と。 その後もいろいろと雑用があったようだが、日が昇るまでには全てが終わったようだ。
 朝には……その場に〈ミスリル〉がいたという痕跡は、一切残っていなかった。





エピローグ


「……“ユダ”がいたのか。間違い無いな?」
 暗い空間に、甘美とも言える男の美しい声が響いた。
「ああ。間違いねぇぜ」
 それに答えるのは、多少ガラの悪い声だ。
「なんせ、〈イニシャライズ〉をもってしても太刀打ちできないASを乗りこなしていたからな。同族以外がそんなことをできるなんて、考えにくいぜ」
「とすれば……」
「どうする?」
 しばしの沈黙。美しい声は、重い声で告げた。
「戦だ。奴を葬る。〈イニシャライズ〉も改造せねばな」
「いいねぇ。燃えてきたぜ」
「燃え尽きぬようにな」
「ぬかせ。俺様を誰だと思ってやがる」
 その言葉を最後に2人が立ち去って行く足音が暗闇に響き……。そして、静寂が訪れた。






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後書き

 ――どうも、『チャットの流れで副管理人に』βブーストです。
瞬「そして、御崎瞬だ」
 ――艱難辛苦を乗り越えて、ここになんとか『光と闇のショウダウン』を完成させる事ができました。
瞬「艱難辛苦、か」
 ――おうっ! ネタがつまってうんうん唸ったのは2度や3度じゃないぜ!
瞬「SSのネタで唸る前に、テスト勉強したほうがいいのではないのか?」
 ――……それはさておき。
瞬「さておくな」
 ――ぬぅ……。深くツッコむと話が進まなくなるから、この辺でカンベンな。お詫びに何か好きなこと話させてあげるから。
瞬「ふむ……。では西洋刀と日本刀の使用形式と歴史について……」
 ――するな。フルメタと無関係だろうが。
瞬「では人を暗殺する場合の道具と手段について……」
 ――そういう『黒い』のは止めろってば。
瞬「残念だ。しかし……今回はやたらと長いな」
 ――そうだなぁ。確かにやたらと長くなってしまったよ。
瞬「しかも伏線張りまくっているし……」
 ――『ミスタ・ブレイド』『〈イニシャライズ〉のパイロット』『プラン12』『瞬のトラウマ』『四希のトラウマ』『ブリューナク・システム』。そして『エピローグに出てきた男』と『ユダ』という名前。だいたいこんなものか?
瞬「そうだな。捌ききれるのか?」
 ――正直、自身無い。うう、頑張ります……。
瞬「できないことを無理にするな。このあほぅ」
 ――できないと断言したわけじゃないだろうがぁぁぁぁぁ。
瞬「まあ、期待せずに付き合ってやるさ」
 ――うぬぅ。よろしく頼みませう。
瞬「ところで、次回はどうなるのだ?」
 ――次回? 皆さんの意表をついて、兵衛が暴れまわるSSになる予定だよ。彼ってどうも『100%ギャグキャラ』として認識されているらしく……作者としては、カッコイイところを見せたくなってしまうんだ。
瞬「なるほどな」
 ――さて……ダラダラ書くのも問題なので、そろそろ後書きを終わらせて頂きます。
瞬「まあ、頃合か……」
 ――我々SS書きにとっては皆様の批評、感想が何よりありがたいので、気が向いた方はメールや掲示板でよろしくお願いしますね。
瞬「辛口で叩いてやってくれ。そのほうがこいつも伸びるだろうから」
 ――それでは好き勝手なことを言う瞬を尻目に、ひとまずお別れさせて頂きます。瞬君たち一同は、次回もハチャメチャな事件に首を突っ込んでもらいましょう。
瞬「お手柔らかに頼むよ。まったく……。あまり無茶させると、斬るからな?」
 ――あう。善処するよ。

 PS.
 BBSで手厳しく、そしてタメになる批評をして下さった渋井殿。
 瞬と梢のイラストを書いて下さった堕ちハダ殿。
 日頃ネタの相談相手になってくれているHiroki殿。
 チャットで相談に乗ってくれた皆様。
 そして……いろいろ愚痴を聞いて頂いたり、ネタを頂いたりした管理人の正樹殿。
 本当に、ありがとうございました。
 次回も、頑張ります。





2000年 12月3日 2001時(日本標準時)
御崎瞬 & βブースト


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